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■中国人名小辞典

前書きに代えて−少し長い姓の話

 クイズです。以下の人名がどんな人であるか、簡単に答えてください。

1.阿斗 2.班超 3.蔡倫 4.曹雪芹 5.貂蝉 6.麗君 7.馮道 8.顧之 9.何仙姑 10.洪武帝 11.金庸
12.李時珍 13.梁山伯 14.林黛玉 15.呂洞賓 16.孟姜女 17.乾隆帝 18.太上老君 19.王昭君 20.武大郎

 如何ですか。6割以上できた方は、かなりの中国通でしょう。8割以上の方は、この本を読む必要はないでしょう。

 それはさておき、中国では「うそをついたら姓を変えるよ」(改姓)というような一種の誓いの言葉があります。  こんな「姓」にまつわる言葉を、ご紹介しますと、

 日本の時代劇映画に相当する「武侠電影」では、仮に「張」という男が、仇を討つのをやめたような場合には、「おれはもう張という姓はやめだ」(我不姓張了 おれは張という人間に値しない)というせりふがでてきます。

 それから中国語には、「五百年前是一家」とよく使われる言葉もあります。これは「同姓のものは、500年前は同じ一家である」ということ。

 以上のように、どうして、こんな言葉があるかと言いますと、中国には、日本の鈴木、加藤、伊藤のように、よく使われる姓に、五大姓というのがあって、それは「王、張、李、趙、劉」という姓です。この五つの姓の人の数だけで、日本の総人口の2倍以上と言われています(ただし、台湾では「陳」姓が一番多いようです)。

 そんなことで、同姓の人に出会う確率はかなり多くなります。そして改姓をしませんから血筋は続くのです。

 まだ、他にも(易姓革命 えきせいかくめい)という言葉もあります。これは、

 「中国古来の政治思想で、天子は天命を受けて国家を統治しているから、天子の徳が衰えれば天命もあらたまり、有徳者(他姓の人)が新たに王朝を創始する(大辞泉)」というものです。

 如何ですか。以上のような話からもお分かりのように、どうやら中国人にとって、「姓」には日本人とは比較にならない特別の意味があるようです。

 ここで、話し変わって、以下は私の体験談です。

 その一
 ある時「田(でん)」という人に会いましたので「田漢(でんかん)の田さんですね」とやりました。その人は「あの人は分家の出身で、私は本家の田です」と流暢な日本語で言われてしまいました(「田漢」については本文98頁参照)。

 その二
 「黄」さんという人に会ったときのことです。私はうっかり「黄色の黄さんですね」とやってしまいました。案の定、その人は少し嫌な顔をしました。その理由は、以下の辞書の説明を

 「黄色」
➀黄色(の)、赤みがかった黄色まで含む。
➁扇情的である、わいせつである、腐敗凋落している。「黄色電影」ブルーフィルム、ポルノ映画、ピンク映画(以上、中日大辞典) ということで、これでは、黄色の黄さんと言われてニコニコできる訳ありません。

 その三
 その後、ある宴席で別の黄さんに会いました。今度は前の失敗があったので「黄帝(ホワンデイ)の黄さんですね」とやりました。するとその人は、赤い酔顔で上機嫌に「そう、だから今ここにいる人、皆んな僕の家来」と言って、呵呵大笑しました。この黄帝については48頁を。

 その四
 「秦(しん)」さんという人に会ったときです。その人は名刺を出しながら「私はこんな姓で恥ずかしい」と、真顔で言われました。ここで、この意味が分かる人は、かなりの中国通でしょう。本文85頁をお読み下さい。

 その五
 今度は、宴席で「余(よ)」という人に会ったときのことです。私は「貴方はきっとお金持でしょう」と冗談まじりに言いました。するとその人には「余裕の無い余ですよ」と見事な日本語で一本取られてしまいました。

 ここで「余」について説明しますと、
 中国で宴会などで、お客様をもてなす際に、料理に不足をきたしては、それこそ、中国人が大事にしている面子を失うことになります。だから、余るくらいに料理を出して、お客が残すことによって、十二分であることが分かります。お皿がきれいになっていては、足りなかったのではないか、ということになりかねません。だから料理は、少し残すのがマナーであるという説もあります。それから中国料理では、コースの最後の方に魚料理が出るのも「魚」の発音が「余」と同一だからという考え方もあります。

 ただし、現在の習近平国家主席が打ち出した「ぜいたく禁止令」による「不剰菜、不剰飯」(おかずもご飯も残さない)のスローガンで、食べきれない料理を提供する習慣は変わるかもしれません。

 中国人と最初の挨拶の「好(ニイハオ)」は、誰でも知っていますが、以上の話から、相手の「姓」一つで、コミュニケーションが図れることも知っていただけたでしょうか。

 それから、中国人の姓は、ほとんどが一字姓「単姓」です。だから中国人同士の初対面の挨拶でも、自分の姓を正確に相手に伝えるために、「我姓曹、曹操的曹」すなわち「私は曹と申します。曹操の曹です」のような説明をよくします。

 そんなことから、中国人の主な「姓」を憶えることとプラス、中国の歴史や常識を知って頂けたらと、このような古代から現代までの人名辞典を書くことと致しました。

 なお、日本語読みによる人名索引と、年代順による人名索引を巻末につけましたので、合わせてご利用ください。

終わりに

 こんな話があります。Aさんが仕事の関係で、「朱さん」という人に会うことになりました。そこで一応、明の太祖の「朱元璋」、朱子学の「朱熹」、元首相の「朱鎔基」をチェックしておきました。

 さて当日。名刺交換が済んでから、Aさん、早速これらの人名を口にしたそうです。この朱さんは、朱元璋には何の興味も示しませんでしたが、なんと「朱熹」の子孫であると名乗ったそうです。仕事の首尾が上々であったことは、言うまでもないでしょう。

 ということで、皆さん、次の人名の人に出会ったなら、どんな名前が浮かぶでしょう。
「王、曹、趙、張、李、劉、林」

 

 

 


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