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■死ぬまで出版で狂っていたい
出版業界の伏流水 わが国最大の超レーサイ出版社

 今年で74歳になった。来年からは後期高齢者の範疇に入れられる。つい先日、運転免許証の更新で、高齢者講習を受けてきたばかりだ。

 若いときには出版で食べていきたいと、訳も分からずがむしゃらに頑張った。「本は本屋で売るもの」との常識で、100軒以上の本屋に配っていたこともある。しかし、無名の出版社の、無名の著者の、宣伝もできないような本は「まったく」と言ってよいほど売れなかった。

 今度こそ、今度こそはと、歯を食いしばって、10点ほど出した。しかし、頑張れば頑張るほど、出版地獄の深みにはまり込んでいった。事務所は返品されてきた本で埋まり、借金は雪だるま式にふくれ上がった。

 本当の出版はあきらめたときから始まった。本は売れない。売れなければ、少なく作ればよい。売れそうな本ではなく、自分で作りたい本を作る……泥沼の中からそれまでの考えとは違った、様々なことを学び取った。

 たどり着いた窮極の出版の一つが「ハンド・メイド・ブック」と称しているこの手作り本だ。2、3部作っておいて、売れればまた作る。女房の手を借りての製本だが、これなら不要な在庫を抱え込まないですむ。

 苦しいけれども、出版は面白い。自分で企画を立て、著者を起用し、本という形にする。この「無」から「有」を生み出すのはやりがいがあり、しかも、やりようによっては一人でもできる。

 本を作るのはそれほど難しくない。しかし、問題になるのはやはり販売である。いまでは書店での販売はあてにせず、自分でミニ書店を開き、ネットに力を入れ、ときには新聞広告やダイレクトメールを打つなど、選挙の泡沫候補よろしく「独自の戦い」を繰り広げている。

 「蟹は甲羅に似せて穴を掘る」と言う。大望を抱きさえしなければ、それなりにやってゆける。それをまた可能にするのが出版でもある。

 以前、同業の編集者から「君は一番幸せな出版者だ」と言われたことがある。現実的には販売を考えない出版は成り立たない。それを二の次としていけるのも、なんとかなる一人出版社ならでは、である。

 やり始めたころは一点を出すのにン百万円とかかった。いまは手元のパソコンで編集ができてしまい、少部数でも可能な格安の印刷システムもある。長年この道に携わってきて、いまほど小さな出版社に恵まれた時代はない。

 老いてますます盛んといきたいところだが、体力の衰えだけはいかんともし難く、この先どうなるかは自分自身でも分からない。ただ分かっているのは跡を継ぐ者はなく、「本屋一代」と決めていることだ。本をあの世まで持って行けるわけではなく、周りに迷惑をかけることのないよう、どうやって上手に“店じまい”するかが新たな課題となってきつつある。

 この講演は羽衣出版の松原正明さんとのご縁で、8年前にさせてもらったものだ。松原さんも静岡で地元本を中心に出している一人出版者である。あのときの話が出版をやりたい人の参考にでもなればうれしい。(平成29年9月)

 

 

 


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