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明治時代の様子を撮影した写真集を出した。これは愛知県が大正2年に出版した『愛知縣寫眞帖』を復刻したものである。これを見ていると、筆者のような昭和生まれの者にも、明治が身近に感じられてくる。 本書の目次からも分かる通り、愛知県庁や名古屋市役所をはじめとした当時の各種官公庁や学校・会社・工場・社寺・特産品・名所旧跡など、実に多方面にわたって収録されている。いや、それよりも前に、巻頭を飾るのはわれらの誇り、金シャチ輝く名古屋城だ。写真帳の一頁一頁をめくっていると、新生明治の息吹が伝わってくるようでもある。
明治23年に出版された宮戸松斎著『尾張名所図絵』には愛知セメント商会が銅版画で紹介されている。こちらは工場だけをアップで描いているが、本書の背後にあるものと同様の光景を見せている。当時の人々は高い煙突から噴き出す黒い煙に、近代産業のあけぼのを感じ取っていたことだろう。 工場が建てられたのは堀川の下流、現在の白鳥橋付近にあった中島という小島だった。この地が選ばれたのも、当時はまだ水運が主流だったことを思い起こさせてくれる。調べてゆくと会社設立にかかわったのは“易聖”とも言われる高島易断の祖、高島嘉右衛門だったというのも意外である。ちなみに、三河では三河セメント株式会社が旧田原藩士らによってスタートを切っていた。 この写真集を見ていて驚かされたのは「砂防工事」と題された禿山の写真である。こんなにも荒れ果てていたのかと、わが目を疑いたくもなってくるほど。同じような光景は次頁で紹介されている「明治用水」の背後の山々についても言える。
山林の荒廃は山崩れや洪水にもつながった。こうした反省から国を挙げて植林事業や砂防工事が推進されていく。この本の出版された大正期に入ると、かなりの成果を上げていたものと見られる。 たった一枚の写真が様々なことを雄弁に語りかけてくる。いちいち紹介や感想を書き始めると、切りがなくなってしまうほど。たった2枚の写真について駄文を添えるにとどめるが、本書に取り上げられているものはこの時代の貴重な“語り部”となっている。 大正2年に出された『愛知縣寫眞帖』はいまや稀少なものとなり、たとえあったとしてもかなりの高額でしか手に入らない。今回、より広い人々に行き渡るよう、手元にあるものをもとに復刻した。制作にあたっては最新の技術により、原本以上に美しく再現できたと思っている(原本はB4判ほどだが、それをA4判に縮小した)。これを手に、明治の愛知を大いに語り合おうではないか。 (ブックショップマイタウン店主・舟橋武志)
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