マイタウン(MyTown)| 一人出版社&ネット古書店 |
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昭和62年、村は消滅した。再び甦ることはない。それぞれの地域に転居した村民にとって、フンドシを締め直すのはまさにこれからである。 いつ果てるともしれない夜ごとのダム集会、それは思い出すさえ嫌な日々であった。たがいの主張に熱心なあまり、つい相手に手をかける者もいる。それこそ口角泡を飛ばしての白熱した議論だったが、過ぎ去ってみればただむなしさだけが残る。このことだけに働き盛りの貴重な半生を無為に過ごした痛恨はいかんともしがたい。転居が終わってみたら、30カ年が過ぎていたのである。 そもそも村の住民にとって徳山ダムとは一体何だったのか。さして重要とも考えられない審議に、それも議論のための議論を戦わせている間に、時間を失ってしまった。そして、もっと重要な審議に意を尽くす余裕がなくなり、結論だけを急いだ。納得できない内容であっても、少数派になるのを嫌って大方は交渉の主導権を握っている方に従う。慎重派は起業者との間に距離を置くから、主導権は推進派が握っていた。そして、妥協に向かって見切り発車したのであった。 |
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