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名古屋弁講座 その4

「えどくる」

 

お祭りだから「えどくって」大変身

 「えりゃー派手にえどくってまったなあ。それじゃまるで歌舞伎役者みてゃーだぞ」
 「おみゃーはなかなか似合うだにゃーか。見とると、こっちがうっとりしてきてまったがや」
 「うれしいこと言ってくれるねえ。いま上手にえどくってまったばっかりだで」

毎年4月3日は“尾張一宮”真清田神社の桃花祭

 毎年4月3日は“尾張一宮”真清田神社の桃花祭。そして局地的に「えどくる」の飛び交う日でもある。ぼくはこの日、家の近くにある神明津町内会へ応援に行くことにしているが、そこはなぜか昔から大の男が遊女姿になって馬を奉納するシキタリになっている。

 そんな引き手が朝も早くから世話役宅に集まり、オナゴ衆たちからケバケバに化粧をしてもらうことになる。オシロイを塗られ、マユズミを入れられ、口紅をさしてもらって。ぼくは別にヘンな趣味はないけど、中にはゾクゾクしてくると言う人もいる。

 十分に「えどくられた」うえ、ピンク色のジュバンに身を包むと、自然に内股で歩いていたりして。そんな美女たちが「デカンショ」を歌い、馬を引き回す光景など、アナタ、ちょっと想像できる? ミスマッチぶりもここまで来ると、恥ずかしさを通り越しておかしくさえなってくる。

 さて、モンダイの「えどくる」の意味はもうお分かりのことだろう。色などを「塗る」ことだが、どちらかというと、それよりも強い感じが込められている。方言はいつでもどこでもパワフルだ。強いて言うならベタベタ「塗りまくる」「塗り立てる」か。

 「あそこの家の娘さん、いましがた、きれいにえどくって出掛けさっせたわ」

 何事にも地味な土地柄、ちょっと派手な格好をすると、すぐに目立ってしまう。周りの目も厳しい。こちらは年に一度のお祭り騒ぎだからいいようなものの、茶髪のネーチャンはちょっと厚化粧しただけで、塗りたくる「えどくる」で表現されてしまう!?

 これとは別に、もう一つの意味もある。「なぞる」「写す」などがそれで、下敷きにした絵や文字などを写し取るときにも使ったりする。「上手にきゃーたって? ただ上に紙をおーて、えどくってみただけだがね」などというのがこれだ。

 こうした「えどくる」のモトは共通語の「絵取る」から来ている。『広辞苑』を引くと「彩色をほどこす。いろどる」とある。この「えどる」に「く」のサービスがついて「えどくる」ができた。

 今年もまた「えどくる」日がやってくる。真清田神社の桃花祭は旧暦の3月3日だったが、いまは1ヶ月ずらして4月3日に開催されることになっている。花は桃から桜に変わってはいるけど、祭りをするには絶好のときでもある。

 盛大な祭りの様子は江戸時代のガイドブック『尾張名所図会』にも描かれている。いまは廃れたと言われてはいるけど、それでも当日は50頭を越す馬が各地から奉納されるほどのにぎわいぶり。そんな中にあってどういうわけか、遊女姿でするのはぼくの参加させてもらっている町内会だけだ。

 不思議に思ってその理由を顔役などに聞いてみるのだが、「さあ、どーしてでゃあなあ。写真を見ると親父たちもこうやって、えどくりからきゃーて出とるでなあ」と言うばかり。でも、ぼくはこの祭りが結構気に入っている。非日常的な晴れ姿が面白く、いかにも祭りらしいではないか。

 


 

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