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名古屋弁講座 その31

「ひーくれはらへれ」

まず聞かん、よくもこんな言葉があったもの

 「おい、おったか。あのよー、『ヒークレハレホレ』という名古屋弁、知っとるか」

 正ちゃんから電話だ。難しい名古屋弁を見つけると電話をかけてきて、こっちが知らないでいようものなら、「ほれみよ、やっぱりこれは知らなんだなあ」と独りいい気になるという悪友だ。呪文のような訳の分からない言葉を持ち出してきたところを見ると、今回は退屈しのぎに、どうもカマをかけてきたような気がしないでもない。

 「なにぃ、『ヒークレハレホレ』?」
 「ちがう!『ひーくれはらへれ』、『ひーくれはらへれ』だわ」

 また、えー加減なことばっか言って。本当にそんな名古屋弁があるのか。

 「どこで聞いてきた? 方言はよー、せみゃー地域で使われとるだけのものも結構あるでよー」
 「なに言っとる。名古屋弁だで名古屋だがや。今日、西区の建築屋さんへ仕事で行ったら、そこの大将が『ひーくれはらへれ』とぽろっと言ったもんで、ちゃんと意味も聞いてきた」

 どうやら本当らしい。こんなおかしな「ひーくれはらへれ」という名古屋弁はこれまでに聞いたこともない。「知らん」と言うのもシャクにさわるし……。

 「そーいやよお、こにゃーだ金沢へ行くと言っとったけど、どーだった」

 話をそらせておいて、先ごろ復刻したばかりの荒川惣兵衛著『ナゴヤベンじてん』に手を延ばした。他の本では見たこともないが、これならひょっとしてあるかもしれない。最後の拠り所だ。

 おお、おお。「ひーくれはらへれ」がちゃんと載っとるではないか。そこには「日暮れ腹減れ しごとをしないで、あそんでいても、日さえたてばよいというばあいにもちいる語」とある。さすがは5000語を収録した『ナゴヤベンじてん』だ。

 「おみゃーが行かなかんと言ったで、利家やまつの墓がある野田山へも行ってきたわ。山の上から殿様や重臣、家臣……一般の人たちまでの墓が裾野までずらーっと並んどってよー、立派なもんだった。あそこのこと思うと名古屋は殿様の墓があれせんで、あわれなもんだなあ」

 そうとは知らず、正ちゃんの金沢報告はまだ続いている。「ひーくれはらへれ」が分かれば、こんな話はもうどうでもよい。

 「そーいや、なんだってゃーなあ」
 「そうそう、知っとるか。『ひーくれはらへれ』って」
 「それはよー、日が暮れて腹が減って……」

 『じてん』の文字を目で追いながら、いかにも知っていたかのように説明してやった。正ちゃんはもう一本取ったものと思っていたらしい。

 「ええっ? 知っとったか。おっかしーなあ。さっきまでの口調と全然違うがや」
 「それぐりゃー、知っとるて」

 とは言ったものの、結局、『じてん』を引いた、と白状した。そこに書かれているだけでは十分な説明とは言えない。正ちゃんにもっと詳しく教えてもらいたかったからだ。

 「えー意味にもわりぃー意味にも使うらしいよ。えー方は『果報は寝て待て』みてゃーなもんだわ。わりぃー方は『その日暮らし』ってとこかな。あれ、おみゃーがおれに聞いてどーする?」

 今回は完全に一本取られた。名古屋弁の達人はまだまだ市井にいっぱいいるものだ。消えそうで消えないのが方言ともいえ、名古屋弁もなかなかどうして、しぶといし奥が深い。

 


 

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