マイタウン(MyTown)| 一人出版社&ネット古書店
マイタウン|東海地方(名古屋・愛知・岐阜・三重・静岡)の郷土史本(新本・古本)専門店マイタウン|東海地方(名古屋・愛知・岐阜・三重・静岡)の郷土史本(新本・古本)専門店

岐阜県馬瀬村

渓流釣りのメッカに、新名所誕生 温泉で沸く馬瀬村を行く

カタクリの花、あちこちに群生
大木生い茂る雄大な自然公園

 馬瀬村は南北に延びた、異様に細長い村だ。不思議がるぼくに、ある村人は「形が“馬の背”に似ているから」とさりげなく教えてくた。なるほど、そう言われてみると、そんなふうに思えなくもない。

 村の北方にあるのが「老谷ささやき自然公園」。このあたりの大自然も尋常ではなかった。樹齢200年を越すヒノキやサワラ、ブナなどが生い茂る雄大な森林だ。

 森の中に入るハイキングコースができていた。湿度が高いせいか、岩や木の根元までが青くこけむし、まるで原生林にでも迷い込んで来たかのよう。しんと静まり返った中で聞く小鳥たちのさえずりが耳に心地よい。

 そんな森の中を馬瀬川が流れている。水はあくまでも清く、豊富な水量を誇るように、激しく力強く。それは豊かに息づく森が生み出した、母なる川の始まりでもあった。

 北の玄関、老谷橋から下流の出会橋付近まで、およそ3キロほどの間が自然公園に指定されている。石ころの間を縫うようにして流れるせせらぎ、青く澄んですごみさえ感じられる淵、両岸の岩が迫った峡谷の奔流。岩場あり、滝あり、釣り橋あり。大自然を背景にして、川は様々な表情を見せてくれる。

 訪れたときはまだ行楽シーズンには一足早かった。川沿いに造られたバンガローも、いまは戸を堅く閉じたまま。足元ではカタクリが所狭しとばかり、紫色をした可憐な花を咲かせていた。

 

清流に躍るアマゴやイワナ
わが国屈指の渓流王国

 馬瀬川は村の中央部を南流し、下流の岩屋ダムに注き込んでいる。釣り師たちにとって、この川はあこがれらしい。この日もあちこちで釣り糸を垂れる人たちを見かけた。

 いる、いる。橋の上からのぞき込むと、あれはアマゴかイワナか、20センチ級の魚が悠然と泳いでいる。水がきれいで、魚影は濃い。

 川は至る所が釣り場のようだが、それに合わせるかのように、釣り客もかなりの数だ。中には腰までつかって立ち込みでしている人もいる。釣りをしたことがないので分からないが、大自然の中で無心に釣り糸を垂れるのもまた気分のよいものだろう。


清らかな水の流れる馬瀬川上流部
清らかな水の流れる馬瀬川上流部
 釣り人が通りかかったので、釣果などを聞いてみた。「いるにはいるけど、みんなにいじめられているのか、なかなか食いついてくれんよ。ここの魚はみな賢いから」。この人は大物のイワナを釣って以来、すっかりこの川に魅せられてしまったとか。

 川に沿うようにして、さらに車で下って行った。川はほとんど手が加えられておらず、どこにでも好ポイントがありそうだ。初めて村に来たはずなのに、周りの景色がなぜか懐かしく感じられてくるのは、それだけ昔ながらの自然が生き続けているせいか。

 この日、泊まった宿では川魚をふんだんに振る舞われた。若い女将さんは「水がきれいだと自慢したりしてますけど、釣りをする人の目にはそれでも年々汚れてきているように映るそうですよ。私たちよりも見る目は厳しいし確かです」と話してくれた。村では「水がきれいな川」「風景の美しい川」「遊んで楽しい川」の三つをモットーに、清流で村おこしに取り組んでいるそうだ。

 

自然だけが売り物ではないぞ
山里は見どころいっぱい

 役場は細長い地形をした、村の真ん中あたりにあった。隣接してある歴史民俗資料館をのぞかせてもらったが、普段はあまり訪れる人もいないらしい。村内では古くから縄文遺跡も見つかっており、飛騨地方に多く見られる独特の形をした御物石器や石冠なども展示されていた。

 村にはお寺が二つあり、いずれも浄土真宗だとか。その一つ、訪れた桂林寺は城郭を思わせるような堂々たる構えで、村人たちの信仰の厚さまでがうかがえるた。木目の浮き上がった本堂の柱や縁側、唐戸などにも風雪が感じられてくる。

 少し下流には「蓮如岩」と呼ばれる石が真新しい小堂の中に安置されていた。のぞき込むと石には僧が座っているような模様があり、それは福井から布教に来た蓮如上人の姿だという。もとは明宝村へ抜ける馬瀬峠にあったそうだが、後にここへ移し変えられ、お堂は近年再建されたばかりだった。

 喫茶店を兼ねた食堂で遅い昼食をとった。注文した「けいちゃん定食」は思っていた以上においしかった。初め「けいちゃん」は店の人の名前かと思ったが、「豚ちゃん」ならぬニワトリの「鶏ちゃん」だそうで、下呂からこのあたりにかけての代表的な郷土料理の一つとのことだった。

 店には横浜から来たという3人組の釣り人もいた。わざわざキャンピングカーでここまで?と驚いたが、彼らにとっては「それほどあこがれの地だった」とか。アユが解禁されるころともなれば、いよいよ多くの釣り客でにぎわうにちがいない。

 村の最北端にある川上岳は村内で一番高い山だ。とても山登りまでする余裕はなかったが、標高にして1626メートル、山容はなだらかでハイキングにもってこいの山だとか。帰りに入った川沿いの露天風呂では、そんな山帰りのグループと出会うことになるのだった。

 

村おこしの決め手はこれ
人気抜群、馬瀬川温泉「美輝の里」

 いま、この村で一番の話題は30億円を投じてできた馬瀬川温泉「美輝の里」。川を背にして山側へ少し入ると、村の地形を思い起こさせるような、細長い瀟洒な建物が見えてくる。温泉「スパー美輝」と宿泊施設「ホテル美輝」がそれだ。

 浴室は広々とした豪華な造りで、気泡湯、寝湯、箱蒸しなど、何と15種類の風呂が楽しめた。ぬるっとした無色透明の湯は「あの下呂にも優る」と評価も高いとか。美輝の名も「美しく輝く」から付けられとのことだが、このオープンで村へ来る観光客がどっと増えた。

 一方、ホテルの方も人気は上々のようだ。訪れたのは平日だったが、すでに予約客で満杯だった。温泉ばかりではなく、飛騨牛やとれたての川魚、山菜など、ここでふるまわれる料理も人気の秘密らしい。

 これだけの人が詰めかけるのだから、いっそのこと、あの資料館をこちらに持ってきてはどうか。そうすれば、村の歴史や暮らしぶりなどをもっと多くの人に知ってもらうことができるし、それはまたここを訪れた人にとっても興味深いテーマであるはず。森や川の様子、山村の生活や習慣などを紹介してゆけば、温泉にさらに新たな魅力を付け加えることができると思うのだが--。

 川に臨んだもう一つの温泉にも入ってみた。「スパー美輝」ができてさすがに客足は減ったそうだが、それでも入浴料は向こうの半額とあって訪れる人は多い。首までつかって露天風呂から眺める周りの景色はのどかで美しく、来たのを歓迎してくれるかのようにトンビが大空に大きく輪を描いてくれた。

 美輝の里を少し下るとダム湖に出る。北と南の標高差はかなりのものだ。自然公園の方はまだ寒いほどだったのに、こちらは木々が芽吹いて新緑もまぶしく、歩いていると汗ばむほどだった。

 来たときは郡上八幡から坂本峠を越えて北側から入村した。帰りは逆にダム湖を見ながら、飛騨川沿いを下ることとなった。スマートな馬瀬大橋が村との別れで、そこからは巨大なダム湖「東仙峡金谷湖」が広がっていた。

 

[情報]馬瀬村役場
〒509-2612 岐阜県益田郡馬瀬村名丸
TEL:0576-47-2111

 

 

一人出版社&ネット古書店
MyTown(マイタウン)
E-Mail:こちら
〒453-0012 名古屋市中村区井深町1-1(新幹線高架内)
TEL:052-453-5023 FAX:0586-73-5514
無断転載不可/誤字脱字等あったら御免