マイタウン(MyTown)| 一人出版社&ネット古書店 |
静岡県吉田町 |
荒涼として広がる大井川の河口 町はその右岸にあって駿河湾に臨む
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大波、防波堤を豪快な滝に
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小山城から見た吉田町の町並み |
武田、徳川の両雄はこの城を巡り、10数年にわたる争奪戦を繰り返した。展示された数々の遺品や史料が訪れた人たちに、激しい攻防のドラマを語りかけてくれる。その城も天正10年(1582)ついに家康の手に落ちて決着を迎えるが、現代によみがえった城は早くも町の新名所になった感じである。
天守閣から併設の郷土資料館へ。ここのいいところは本丸や曲輪、土塁などがよく復元されていることだ。同館へ行く途中にその堅固な守りをしのばせる三重堀もあり、傍らには武田方の女性が身投げしたという、落城悲話を伝える案内板も立てられていた。
城山のふもとに能満寺という古刹があった。本堂の前に立ちふさがるようにして大きなソテツがあり、「能満寺のソテツ」として日本三大ソテツの一つに数えられているそうだ。推定樹齢800年、根元の周り4、5メートルとのことだったが、早くも地面すれすれのところで数十本に枝分かれしていて、どれが幹やら枝やら分からないほどのものだった。
城はちょうどこの寺の裏山に位置していたわけだ。寺を含めて一帯は能満寺公園として整備され、訪れたとき、大勢の幼稚園児がハイキングにやってきていた。近くには「長藤」で知られる林泉寺や古墳、武将の屋敷跡などもあるとのことだった。
朝食前に、海岸へ散歩に出た。その途中で見かけたのが、和泉太夫誕生地の標札。昨日見た天守閣の史料館に浄瑠璃の人形が展示されていたが、この家がそれを使って演じた和泉太夫の生家だった。
標札は道を背にした小堂の後ろにあり、回って中をのぞき込むと、石造の観音様が安置されていた。左側に置かれた四角い形の墓石がどうやら和泉太夫のものらしい。庭に人の気配がしたので、声を掛けさせてもらった。
「こないだも人形の研究家という人が訪ねてきたけーが、ここで生まれた田村源五平という人がな、豊竹一座の2代目になったとかで、お城に預けた人形は浄瑠璃のもんとして日本でも一番古いらしいだよ。私はここへ嫁に来て50年になるけーが、このごろになってやっとその価値が分かりかけてきた程度だけえ」
その人、志奈さんは扉を開け、お堂の中を見せて下さった。観音様は安産に霊験あらたかだとか。左側にはほおづえをついた小仏が置かれていたが、こちらは歯痛にいいとかで、やはり地元の人たちの信仰を集めてきたものらしい。
源五平は元文4年(1739)ここ住吉で興行した折、愛用の人形30余体を預けていったそうだ。昭和40年くらいまで残されていたが、いまあるのは天守閣に飾られている1体だけだとか。そして、墓の側面には「豊竹和泉太夫」の文字も彫られているとのことだった。
天守閣で見たときは「ひなびた人形」くらいにしか思わなかった。が、こうして散歩していると、思わぬものに出くわす。旅に出ると朝の散歩やジョギングをすることにしているが、この日もあちこちで「早起き三文の徳」を実感することになった。
吉田町はまたウナギの名産地でもある。町の中を車で走っていると、あちこちで養鰻池に出くわす。特に大井川の河口に近い川尻地区に集中していた。
そのうちの一軒を訪ねてみた。養殖も露地からハウスに変わってきたそうで、10年前と比べて生産量こそ変わらないものの、面積は激減しているとのこと。〃かぼちゃびく〃と呼ばれるカゴを水中から引き上げてもらったら、出荷を待つばかりの元気なウナギがぎっしり詰まっていた。
ここのウナギは豊富な水で飼われているので特においしいとか。町には「うなぎ」と書かれた看板も目立つ。もちろん、この日の昼食がうなぎ料理になったことは言うまでもない。
ここはまた、食いしん坊にとってもうれしくなるような町だ。新鮮な海の幸はふんだんにあるし、生のシラスはこの町ならではの珍味。シーズンともなると畑ではマスクメロンやレタスもとれるそうで、町のパンフレットには「水と緑と城の町」「ウナギとシラスとレタスの里」の大見出しもあった。
そういえば朝の散歩中、きれいなデザインのマンホールに目が止まった。そこにはカモメと波と松が描かれていたが、驚いたのはそれが下水道のマンホールだったことだ。後で聞いたら大井川沿いに大きな企業が何社もあり、財政的にはかなり恵まれた町であるらしい。道理で役場の建物も立派なはずだった。
町内に東名のインターチエンジはあるし、国道150号や県道も整備されている。ウナギの池は埋め立てられて、新しい住宅地に変わりつつあった。町は小さいながらも活気にあふれ、これからの発展が期待されているようだった。
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