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名古屋弁講座 その6

「きいない」

 

キーで「きい」打って「黄」は出るか?

 自分では方言と気付かずに使っている言葉がある。「○○さん、みえますか」の「みえる」も方言だし、「あの角を右にまわって」の「まわる」も本来は「曲がる」でなくてはならない。机を二人で持つときの「つる」など、共通語ではうまく表現できないような言葉もある。

 「黄」−−名古屋人だとついうっかり「きい」と発音してしまう。ワープロのキーで「きい」を入力しても、変換されて出て来るのは「紀伊」「奇異」「忌諱」「貴意」などで、いまあげた「黄」は出てこない。「黄」を打ち出すには単に「き」一字だけで十分なのだ。

 でも、名古屋人が口にするのはやっぱり「きい」。正しく「き」と言えるのは「黄色」とか「黄色い」と続くときぐらいで、その「黄色い」ももっぱら「きいない」、ちょっとくだけて「きーにゃー」でなる。それほど「き」と言うのは難しい。

 「(信号が)きいになるで、気ぃつけやーよ」

 「あの野郎、まんだクチバシがきーにゃーくせして、えらそーなこと言やがって」

 信号の色は「あか」「あお」「きい」。「き」と言うよりも「きい」の方がおさまりがいい。名古屋人に「黄」を「き」だけでとめさせるのはそれほど至難の技なのだ。

 「きいになったでとまれって? 注意しながら急いで通り越せということだろ」

 おいおい、そんなおおちゃくな運転があるか。中には「黄色当然、赤根性」と言うひどい人もいたりする。だから一向に交差点での事故が減らないんだ。

 とは思いつつ、自分でもやってしまうことがある。「き」だけではなかなかとめられないのと同様、信号が「きいなく」なったというのにブレーキに足が行かない(どころかアクセルに行っていたりして)。無理に突っ込んでしまって「危なかったなあ」と思いながらバックミラーを見ると、まだ後ろに二、三台続いているなんてこともめずらしくない。

 色を表現する名古屋弁には、それこそ色々なものがある。100%「きいろい」ことを「まっきっき」とか「まっきいきい」とか言う。漢字で書けば「真っ黄い黄い」か。これが赤なら「まっかっか」だ。

 後ろに「〜け」を付けるものもある。「まっしろけ」「まっくろけ」「まっさおけ」「まっかしけ」。「け」は接尾語で上の言葉を強調する働きがあるが、この場合、接頭語の「ま」(真)まで加わっているから二重の強調である。が、「け」を使った肝心の黄色の表現となると、どういうわけかこれがない。

 ところで、問題の「きいない」は「黄色い」よりも古い言葉なのだそうな。静岡大学の山口幸洋講師は『東海の方言散策』の中で、京の都で「きいない」が生まれて各地へ広がり、「黄色い」はその後にできてきた、と書いておられる。名古屋人は律儀で保守的だから、新しい「黄色い」がやって来てもそうは簡単に「きいない」を捨てられなかった。ちなみに「きいない」がいま残っているのは愛知、岐阜、静岡と石川の各県、それに北九州と四国の愛媛県くらいだとか。

 「きいない」は日常生活でしょっちゅう使っている。「黄」が「きい」となってしまうのはこの言葉のせいだったのかも?

 


 

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